クリュッグの経営立て直し策から考える富裕層向け商品・ブランドのブランディングのキーポイント

写真:(c) Forbes JAPAN

ドイツからフランスに移民したヨーゼフ・クリュッグが1843に設立したシャンパーニュ・メゾン「クリュッグ(Krug)」。各シャンパーニュ・メゾンが、最高のブドウと技術の粋で造り上げる「プレスティージュ・キュヴェ」にフォーカスし、世界中にコアなファンを持つブランドだ。クリュッグは1999年から、世界的コングロマリット「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」グループの傘下に入っている。

シャンパーニュの中でもプレスティージュ・キュヴェはリリースまでに最低6~10年と時間がかかる。また、景気に左右されやすいという側面もある。特に2008年はリーマンショックによる世界的な不景気の影響を受けて、クリュッグも経営が厳しい状況にあった。

そこで、2008年末にメゾンの立て直しのために抜擢されたのが、アルゼンチンのLVMHグループCEOも務めたマルガレート(マギー)・エンリケス氏だ。就任1年目は、リーマンショックの影響もまだ残っており、損失は拡大する結果となった。

転機となったのは、当時知人から言われた「ラグジュアリー商品は一朝一夕で成り立つものではない」というアドバイスだ。マギー氏は「ラグジュアリーにおいては、象徴となる人物がそのブランドの本質である」ことに気づき、長年家族経営で成長してきた「クリュッグ」創業者の信念を理解することに努めた。

クリュッグのフラッグシップ商品である「グランド・キュヴェ(Grande Cuvée)」含め、プレスティージュ・キュヴェの多くはその年に収穫されたブドウのみを使い、良い年かどうかにかかわらず必ず毎年作られる。創業者の信念を理解する、クリュッグのシャンパーニュの真髄を理解することだけでなく、マギー氏は改革にも根気強く取り組んだ。

そのひとつが「グランド・キュヴェに、年ごとのエディション番号をつける」ことだ。また、ボトル裏のラベルに記載されているIDナンバーを使って、スマートフォンやパソコンで、そのシャンパーニュが「どうやってできているのか」という情報(熟成年、配合割合など)が見られるようにもした。

当初は内部からの反発もあったが、今ではこのIDナンバーで情報が見られる仕組みはシャンパーニュ愛好家から絶大な支持を得ているという。

もちろん、企業やブランドによって状況が異なるため、どの企業、ブランドにも当てはまるというものではないが、クリュッグのように創業者の天才的な発想で生まれたような商品の場合、創業者の信念や商品の真髄を徹底的に理解するということが、富裕層ビジネスにおけるブランディングの重要な要素のひとつになっているということが考えられる。

日本にも伝統工芸品のように長い歴史を持つ商品は全国各地に存在する。マギー氏が商品にエディション番号やIDナンバーを付けたように、改革が必要な部分もあると思われるが、先行きがうまく見えないという場合、一度原点に戻って徹底的に理解することに注力してみてはいかがだろうか。

 

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